健康・医療分野でPHR(Personal Health Record)が話題を集めています。
PHRは「生涯型電子カルテ」とも呼ばれ、複数の医療機関や薬局などに散らばる健康関連の情報を1か所に集約し、保存・活用する仕組みを指します。
患者自らの健康・医療情報は、個人の身長や体重、血液型、アレルギー・副作用歴といった基本情報のほか、医療機関の診療記録や薬局の投薬履歴、スポーツジムでの運動実績、自宅で測定した体重や血圧などの情報までが含まれ、スマートフォンなどの端末で集約・保存された病院の診察記録や健康情報を閲覧することにより、個人に合わせた健康維持サービスやコンテンツが提供できます。
今回ご紹介するWelbyは、日本郵政や、オムロン、テルモ、NTTドコモなどと提携・連携するPHRのリーディングカンパニーといった存在で、2019年3月に上場を果たした新進気鋭の会社です。
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Welbyはどんな企業か
2011年9月に設立され、本社を東京都中央区日本橋本町に置く「Welby」 は、患者が自己管理するためのデータなどを患者の主治医と共有する「PHRプラットフォームサービス」を提供しているPHR業界のリーディングカンパニーとして知られています。
2018年10月にブランド力を強化するため、社名を「株式会社ウェルビー」から「株式会社Welby」に変更しました。
Welbyの主要事業は医療機器・関連ソフトウェアの製造・販売・運用と各種医療データの分析・調査・コンサルティングで、塩野義製薬(株)、アストラゼネカ(株)、小野薬品工業(株)、ヤンセンファーマ(株)、ファイザー(株)、武田薬品工業(株)、経済産業省徳島大学病院など多数の医療機関を主要顧客に事業を展開。
提携・連携先としては、日本郵政(株)やデジタルガレージ(株)などが挙げられます。
また、臨床研究では、徳島大学(糖尿病)、自治医科大学/国分寺さくらクリニック(高血圧)、名古屋大学(慢性腎臓病)、大阪市立大学(非アルコール性脂肪肝炎)、経済産業省「平成26年度健康寿命延伸産業創出事業」に参画するなど、実績を上げています。
Welby の事業
Welbyの事業概要
Welbyは、「Empower the Patients」(患者が自ら情報を得て、自ら行動し、自ら判断する)を事業ミッションに掲げ、糖尿病・高血圧症などの生活習慣病をはじめとする様々な疾患の治療分野において患者の自己管理をサポートするPHR(Personal Health Record)プラットフォームサービスを展開しています。
プラットフォームサービスとは、Welbyが構築・運営する各疾患別のアプリを経由して、患者から提供された症状などの医療情報等の記録や、医療情報のデータベースへの保存・管理、ウェブサービスを利用した医療情報の医療機関等との共有を可能にする一連のサービスを指します。
医療者と患者がPHRプラットフォーム上で患者の健康・医療情報等を共有することで、WelbyのPHRプラットフォームサービスは疾病管理ツールとして機能します。
Welbyが提供するPHRプラットフォームは、患者の「治療継続の支援」や「自己健康管理の促進」にフォーカスしたもので、各疾患別のアプリは医療者によるパンフレットを通じた推奨のほか、医療機器メーカーや医薬品卸事業者との提携、製薬企業との連携、ウェブマーケティングの実施など様々なチャネルを活用して拡大施策を講じており、2018年12月末時点での各アプリの合計ダウンロード数は53万回に達しています。
welbyホームページより引用
Welbyのビジネスモデル
(1)疾患ソリューションサービス
Welbyのビジネスモデルの1つめは、製薬企業からのサービス構築の依頼を受けてPHRプラットフォームを開発・運営するというものです。
具体的には、生活習慣病やがん、特定慢性疾患などで製薬企業から提案を受け、患者向けの疾患治療の自己管理や治療継続を支援するアプリを提供するとともに、集積されたデータを通じて医療機関や臨床研究との連携を促進するためのPHRプラットフォームサービスを開発・運営しています。
製薬企業にとっては、Welbyのプラットフォームサービスを活用した活動を通じて、自社医薬品の医療従事者間での知名度が向上し、医薬品の売上増加などの効果が期待されるため、Welbyは製薬会社とウィンウィン(Win-Win)の関係を築いています。
(2)Welbyマイカルテサービス
Welbyマイカルテは、糖尿病や高血圧患者などを対象に、スマートフォンで血糖値や血圧などの自己管理を支援する無料のPHRで、各種の測定機器で取得した血圧などのデータをアプリに簡単に取り込めたり、写真で食事内容を記録したりできます。
Welbyマイカルテサービスは、マイカルテにより患者の自己管理をサポートするクラウド型サービスで、Welbyが自社構築して運営しています。
もちろん、スマホ以外でも通信機能のある血圧計や血糖測定器、ウェアラブル機器を使えば血糖値・血圧・体重や、食事や運動など疾患治療に必要なデータの記録を簡単にできます。
また、患者が記録したデータは家族や登録医療機関と共有でき、患者は医師による適切な治療サポートを受けることができます。
医師に勧められてWelbyマイカルテ使い始めたユーザーは、当初は約60%、3カ月後でも約40%の人が利用しており、3カ月間使い続けると習慣化するため、それ以降の減少はあまり見られないというデータもあります。
(3) 医療データ調査事業
製薬メーカーだけでなく、ヘルスケア関連業界における様々なプレーヤーにとって、マーケティングデータの分析は必須の作業です。
Welbyは集積された医療データをベースに全ての診療科を対象とする医療者のリサーチはもちろんのこと、疾患毎の患者を対象とするリサーチを行うことが可能です。
Welbyはメディカル、ヘルスケア向けに、このようにして得た解析結果とともに、必要な情報とマーケティングプランへの提言を提供しています。
同調査事業は、メディカル、ヘルスケア業界におけるWelbyの存在感と知名度を増す事業として位置付けられます。
Welbyの中長期の成長戦略
Welbyは2019年3月、「中長期の成長戦略」を発表しましたが、そこで既存事業で拡大しつつ、3つの新規分野でのさらなる強化を図ることとしました。
まず、既存事業では、マーケティング支援によりPHR適用対象疾患と対象薬品の拡大による収益拡大を狙うこと、PHRシステムとの連携により医療機関にマイカルテを普及・拡大すること、マイカルテを通じて企業や健保向け重症化予防ソリューションの提供を拡大することとを挙げています。
また、「医薬品の開発、臨床研究など臨床研究分野のデータ提供」、「オンコロジー(ガンなどの腫瘍の原因・治療などを研究する学問分野)など疾患領域別の新規プラットフォームの立ち上げ」、「医療機関向けCRM(顧客情報一元化システム)機能などPHRプラットフォームサービスの価値向上による収益機会の獲得」の3つを新規分野と位置付けています。
Welbyよれば、健康保持や増進から患者の生活支援までを集計したヘルスケア産業の市場規模は2016年の約25兆円から2025年の約33兆円に膨れ上がると推計されます。
しかし、その一方で健康管理システムPHRが普及すれば、診療の質が高まることで無駄な医療費が削減され、医療費適正化の経済効果が約2兆円に達すると推計されています。
Welbyは買いか
上場初日は28%高と堅調
Welbyは2019年3月29日に上場しましたが、公開株式数が19万7000株と非常に少なかったことから買い注文が殺到し、結局、公開価格(5200円)の3.47倍の1万8030円で初値を付けました。
大株主で業務提携しているデジタルガレージや日本郵政グループの日本郵政キャピタルが今回のIPO売出しには参加しておらず、短期的な保有株の売却懸念は強まらないとの見方も、株価急騰の要因となりました。
業績と上場後の株価動向
(1) 直近5年間の業績
Welbyの売上高構成は2018年12月末時点で、製薬企業からのサービス構築費用を中心とした疾患ソリューションサービスの売上高が全体の7割強、自社構築・運営のクラウドサービス「Welbyマイカルテサービス」の売上高が3割弱を占めています。
疾患ソリューションサービスは、製薬会社からの依頼によるPHRプラットフォームサービスの開発等で、アプリの開発費は製薬会社から得ています。
アプリ開発は主に承認された新薬の販売開始に伴う医薬品の適正使用促進のためで、プラットフォームサービスの運営やサービスの保守・運用に対して製薬会社から報酬を受けています。
なお、顧客である製薬会社数は19年2月時点で国内製薬大手など14社あります。
一方、Welbyマイカルテサービスは、2018年12月末時点でダウンロード数が前年同月末比43.4%増の42万3千ダウンロードに、2019年6月末時点では60万人超と普及が急拡大しています。
サービス提供先は、自治体の住民や一般企業の従業員、機器メーカー、検査会社等医療周辺企業、医療機関など9,500医療機関に達しており、各医療機関のWeblyマイカルテサービス利用に対する課金を売上計上としています。
welbyホームページより引用
(2) 今後の業績見通しは
2019年12月期の通期予想も、PHRプラットフォームサービスの導入やWelbyマイカルテサービスの顧客が順調に増え、売上高が前期比34.0%増の10.8億円、経常利益が同20.3%増の1.8億円と増収増益の見込みとなっています。
なお、税効果会計の影響で純利益は同11.4%減の1.5億円となる見込みです。
業績動向(単位:百万円) | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | |
2016年12月 | 単独実績 | 253 | -136 | -136 | -136 |
2017年12月 | 単独実績 | 474 | -73 | -76 | -76 |
2018年12月 | 単独実績 | 808 | 156 | 153 | 176 |
2019年12月 | 単独見込 | 1,080 | 200 | 180 | 150 |
2020年12月 | 単独見込 | 1,500 | 270 | 270 | 220 |
(3) 株式分割実施の発表で一時買い気配
9月17日に、10月3日現在の株主を対象に1株につき4株の割合で分割すると発表しました。
株式分割の目的は、株式の投資単位当たりの金額を引き下げ、流動性を高めるとともに投資家層の拡大を図ることです。
この発表を受けて翌18日、最低投資金額が現在の4分の1に低下することから、株式の流動性の向上と投資家層の拡大を期待する買いが入って、前日比+13.6%の13,100円と株価は急反騰しました。前日までの続落を受け、値頃感が高まっていることも買いを後押ししました。
今後の見通しと注目ポイント
疾患ソリューション事業は、製薬会社向けアプリ提案で2019年12月期下期に大型の案件を獲得しており、さらに5~10本の新規受注をめざすことで一段と伸びる見込みとなっています。
また、個人・企業向け「マイカルテ」事業も医療機器会社などからの引き合いが増えており、業績の拡大に寄与すると見られます。
くわえて、2020年12月期も製薬会社からのアプリ受注と「マイカルテ」が着実に増えて増収増益が続くなど、業績は堅調に推移するとみられます。
さて、Welbyの事業は主に製薬会社から収益を上げるビジネスモデルですが、「マイカルテ」サービスでのアプリ利用者層も着実に拡大しており、事業の拡大を支えています。
これまでに、愛媛CATVと事業提携してテレビでアプリを紹介し、「マイカルテ」の利用を促進するなど、「マイカルテ」普及の重点施策として地域密着型の取組みを進めているほか、2019年前半に製薬会社マルホ社と症状を記録できるアプリを開発し、皮膚科領域でのPHRサービスの拡大を図るなど、積極経営を進めています。
Welby株の基本情報
Welby 株の基本情報は以下のとおりです。
会社名 | コード | 市場 | 業種 | 売買単位 |
株式会社Welby | 4438 | マザーズ | 情報・通信業 | 100株 |
なお、2019年10月3日に1株を4株にする株式分割を実施されるので、10月3日以降は9月20日の終値1万2,600円で計算した理論価格が3,200円になります。
したがって、100株を買うとすれば32万円と手の届く範囲の投資額になるので、取引が活発になると予想されます。
まとめ
海外ではPHRは盛んで、さまざまなサービスが展開されています。
しかし、国内ではペーパーが主流で、ITを活用したサービスはWelbyが誕生するまでありませんでした。
このエアポケットに着目したのが代表取締役を務める比木(ひき)武氏で、2014年にマザーズ上場を果たしたメドピアの立ち上げメンバーの一人です。
シリコンバレーのIT企業で日本マーケット向け事業に携わった経験もあり、医療系サービスにも造詣が深く、それらを活かして立ち上げたのがWelbyです。
そのWelbyが掲げているのが「ITで新しい医療をめざす」という大志です。
医療界では機能の分化が進み、患者のニーズとのマッチングにかい離が生じているといわれます。
その意味でも、医療と患者をアプリでつなぐサービスを展開するWelbyの役割はますます大きくなります。
今後、国内や医療界におけるWelbyの存在感を増して、株価も居所を変えていくと大いに期待できそうです。
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