化学産業の研究開発と素材を軸に独自性を貫く東レは、繊維ナンバーワンの総合化学リーディングカンパニーとして異彩を放つ優良企業です。
東レは三井グループの中核企業で、大阪府大阪市北区中之島に大阪本社、東京中央区日本橋室町に東京本社を置いています。
基幹事業の繊維、プラスチックをはじめ、戦略的拡大事業と位置付ける炭素繊維複合材料や情報通信材料・機器、さらにはライフサイエンス事業まで、徹底して素材づくりナンバーワンにこだわり、発展を続けています。
また、海外25か国に拠点を有し、国内に99社、海外に156社のグループ企業を持ち、グローバルに事業を展開しています。
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東レのあゆみ
東レの誕生
東レは、1926年、滋賀県大津市石山で創業しました。
そして、創業の地は今もなお東レ滋賀事業場として同社最大の製造拠点となっています。
1970年に東レと社名変更しましたが、当初は元の社名のとおり天然セルロースを化学薬品で処理してつくるレーヨンの生産を行っていました。
レーヨンは絹に似た光沢感を持ち、吸・放湿性に優れ、絹より安価という当時の先端素材ということで、明治以降、絹の生産と輸出で外貨を稼いできた我が国にとって、レーヨンはぜひとも手がけなければならない新分野であったわけです。
レーヨンの事業化に乗り出したのが、三井物産の筆頭理事の安川雄之助です。
当時、帝人や旭化成がレーヨンの生産で高い業績を上げていたことから、1925年の三井物産の役員会で東レの設立を決め、翌1926年1月に設立総会を開催。
本社を東京・日本橋に置き、安川本人が会長に就任しました。
三井物産は東レの設立にあたって2000万円、現在の貨幣価値で2000億円を出資し、1927年8月には滋賀工場で同社初のレーヨン生産に成功しました。
その後、東レを含む日本のレーヨン産業は1930年代に絹に代わって黄金期を迎え、東レは1931年に第二工場、1936年に第三工場を稼働させて旺盛な需要に応えました。
ナイロンで育つ
1938年に米国デュポン社が世界初の合成繊維「ナイロン」を発明しました。
東レは逸早くナイロン市場の成長性に着目してナイロンの研究を加速し、ほどなくナイロン6という繊維の紡糸に成功しました。
戦後、レーヨンの需要は瞬く間に低下しましたが、ナイロン分野で先行していた東レは独自の研究に加えて1951年6月にデュポン社の製造技術も得て、急成長を遂げました。
その後、靴下やストッキングなどナイロンの需要が急速に伸びた結果、1950年にはナイロンの売上がレーヨンを上回りました。
繊維のデパートへ
ポリエステルが発明されたのは1948年で、その特許を得た米デュポン社と英ICJ社が工業生産に入りました。
東レもポリエステル繊維の事業化にむけて研究を始めていましたが、ナイロンに全精力を傾けていたため手が回らず、ICJ社などとの技術提携交渉が難航したこともあって、結局、1957年に「テトロン」という名称で帝人とともに生産を開始しました。
テトロンが驚異的に拡大した結果、1964年には東レの主力事業の座がナイロンからテトロンに交代しました。
また、アクリル繊維も1957年から本格的な研究を開始し、1964年に商業化に成功。
こうして、東レはナイロン、ポリエステル、アクリルという三大合繊すべてを扱う「繊維のデパート」を体現しました。
プラスチック・ケミカル事業で蘇り、高成長続く
東レは三大合繊を一手に展開し、一時は国内収益企業ナンバーワンとなるなど高成長を遂げましたが、1970年以降は国内の繊維産業が成熟化して繊維不況に見舞われ、東レも合繊繊維に続く基幹産業の育成に舵を切りました。
その代表格が樹脂とフィルムの2本立てで構成されるプラスチック・ケミカル事業です。
繊維もフィルムや樹脂も、ポリマー(高分子材料)から作られ、これを一次元に伸ばすと繊維に、2次元に拡げればフィルムに、3次元に拡げれば樹脂になります。
1953年、東レはナイロン樹脂の生産を開始し、1958年には名古屋にプラスチック研究所を設立してナイロン樹脂の応用事例を顧客に提案していきました。
1960年にプラスチック部門を新設。
その後、東海道新幹線のまくら木のバネ受け板に採用され他ことが弾みとなって、プラスチック部門は東レの屋台骨の一角を占めるまでに成長しました。
なかでも、大きな転機となったのは車のラジエータータンクへの採用で、同社のガラス繊維入りナイロン66樹脂タンクが国内車のすべてで採用されました。
その後も、1962年ABS(アクリル・ニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、1976年にPBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂を工業化しました。
プラスチック・ケミカル事業のもうひとつの柱のフィルムでは、1959年に三島工場にポリエステルフィルム「ルミナー」の生産ラインを設置して本格販売に乗り出しました。
ルミナーは現在、国内を含め、米・仏・マレーシアなど6か国で生産され、コンデンサー電気絶縁体、液晶パネル用光学フィルムなど、乗法通信材料・機器向けを中心に広く利用されています。
ライフイノベーションとグリーンイノベーションで新分野を開拓
高分子技術をコア記述として発展してきた東レが、次の収益拡大の柱として注力しているのが、ライフイノベーションとグリーンイノベーションの分野です。
ライフイノベーション事業では、1962年、基礎研究所(現医療研究所)を設立し、ライフイノベーションの研究・開発に着手しました。
なかでも医療分野に高い関心を持ち、肝炎治療薬「フエロン」と末梢神経循環障害治療薬「ドルナー」、そう痒症改善薬「レミッチ」の3つの画期的新薬の開発に成功しています。
このほか、高感度DNAチップや高付加価値医療材料の開発も進められています。
また、もうひとつの新分野であるグリーンイノベーション事業では、水処理で海水の淡水化プラントのキーデバイスとなる逆浸透(RO膜)やこれと併用する精密ろ過(MF)膜、ナノろ過(NF)膜、限外ろ過(UF)膜を製品化しており、この4つを生産しているのは世界で唯一、東レだけです。
炭素繊維事業でさらなる戦略的拡大へ
東レはボーイング社向けに炭素繊維の供給を開始したのは1970年代ですが、2006年4月に炭素繊維「トレカ」を2021年までボーイング787向けに単独供給する契約を締結するなど、炭素繊維事業は大きく開花しました。
さらに2015年11月には787の契約延長と次世代旅客機「ボーイング777X」向けにもトレカを単独供給する契約を締結するなど、東レはPAN系と呼ばれる高性能な炭素繊維で航空機向け世界シェアの50%を担う最大手となるまでに成長しています。
事業内容
創業以来、このコア技術を価値創造の源泉に、基礎素材メーカーとして新分野・新素材の開拓に励み、創業時の繊維事業に加えて、機能化成品事業、炭素繊維複合材料事業、環境・エンジニアリング事業、ライフサイエンス事業を世界26か国で展開しています。
繊維事業
まず、繊維事業では、ナイロン、アクリル、ポリエステルの3大合成繊維すべてをし、原糸・原綿、エアバック・シートベルト、火力発電用バグフィルターなど産業資材まで幅広い分野でグローバルに展開しています。
機能化成品事業
機能化成品事業では、樹脂、フィルム、ケミカル製品、電子情報材料の4つの分野で展開しており、ポリエステルフィルムや特殊有機溶剤の世界ナンバーワンメーカーとして高い国際的競争力を持っています。
また、非石化原料由来の樹脂や次世代電池部材フィルムなど環境対応にも力を入れています。
炭素繊維複合材料事業
炭素繊維複合材料事業では、炭素繊維のナンバーワンメーカーとして、航空機から車の構造材料・部品から圧力容器・風力発電の風車・建築補強材料などの産業用途、ゴルフクラブなどのスポーツグッズ向けまで様々な分野で高い評価を得ています。
また、鉄の約10倍の強さとアルミの2分の1の軽さという特性により航空機や自動車の軽量化による大きな省エネ効果が期待されることから、炭素繊維は地球温暖化問題解決に貢献する素材としても注目されています。
環境・エンジニアリング事業
環境・エンジニアリング事業では、水処理膜をフルラインナップで展開する東レの水処理事業は、水不足の深刻化が予測される21世紀の水需要に対し、 世界トップレベルの技術力を有する逆浸透(RO)膜などの水処理の技術で水資源の確保に貢献しています。
ライフサイエンス事業の主力は、医薬事業、人工腎臓やコンタクトレンズなどの医療材事業および超高感度DNAチップなどのバイオツール事業です。
また、分析・調査・研究支援等のサービス事業も行っています。
オープンイノベーションを重視
2002年には、それまでの自前主義からの脱却を旗印に研究改革を行い、国家プロジェクトへの参加や他社・大学との連携など、オープンイノベーション重視の姿勢に転換しました。
先端材料開発を担うのは東レの「技術センター」という組織で、国内12拠点、海外15拠点のセンターにすべての研究・技術開発機能が集約されています。
全世界の要員はおよそ3700人、東レグループ全体の約8%を占めています。
東レの業績と株価
東レの業績
東レの2019年3月期の連結決算は、売上高が2兆3888億円、営業利益が1414億円で、増収減益となりました。
2月8日に行った2019年3月期の第3四半期連結決算の発表で、繊維や機能化成品、ライフサイエンス部門の伸び悩みが響き、営業利益が1600億円から減額修正されたのです。
一方、炭素繊維事業は先行費用が軽減し、原料高による価格転嫁影響もなくなることから業績はV字回復しており、自動車向け樹脂や電子情報材料も好調で、2020年3月期連結決算は売上高が2兆5300億円、営業利益が1600億円と増収増益の見込みとなっています。
2019年3月期連結決算で発表された総売上高に対するセグメント別の割合でも繊維が40%と最も多く、次いで機能化成品が36%、環境・エンジニアリングが13%、炭素繊維複合材料が9%、ライフサイエンスが2%の順となっており、炭素繊維複合材料が総売上高の増加をけん引しているといえます。
東レの株価動向
東レの株価は現在(2019年)7月31日時点)で757.5円、予想PERは13倍程度と割安になっています。
というのも、2019年3月期連結決算の営業利益の減額修正の発表や、ボーイング社が製造する小型ジェット機737の新型機737MAXが短期間に2度の墜落事故を起こしたことなどが響き、2019年は調整局面が続いているからです。
しかし、2015年には上場来高値1130円まで買われており、動意付けば最高値を更新する可能性も出て来ます。
2019年6月9日の報道で、東レが血液一滴から複数のがん発症の有無を一度に検査するキットを開発したと伝わると株価は翌10日には前日比約7%高の急騰となりました。
検査キットは2019年中に厚生労働省に製造販売の承認を申請する予定で、早ければ来年にも医療機関で検査キットが使えるようになります。
同検査キットには東レの得意分野である素材加工技術が活かされており、通常は医療・バイオ分野は好材料が出ると業績や株価が大きく伸びることが多いので、今後の東レの株価動向に注目が集まっています。
なお、時価総額は1兆2009億円、予想配当利回りは2.11%と標準的、取引単位は100株なので10万円未満の少額投資が可能です。
まとめ
現場第一主義を貫き、組織の壁を取り払い社員一丸となって新たなテーマに取り組むというフォア・ザ・カンパニーの姿勢が、東レを世界一競争力のある会社につくりあげました。
時代に迎合するのではなく、時代の変化に適合し、「現場」に即したあるべき姿を確立していく「時代に適合した経営」を行う東レは、これからも航空機向け炭素繊維シェアやポリエステルフィルムシェアなどのナンバーワン企業として注目を集めることでしょう。
最後になりましたが、2019年末には創業の地・滋賀事業場に「未来創造研究センター」が完成します。
センターでは東レ独自の材料・技術を核とする最先端技術を融合し、未来創造型の研究や技術開発が進められことになります。
ここからどのような製品が生み出されるのか、東レの将来が楽しみです。
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