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始めに
亡くなった両親や親族が株を保有していた場合、相続の手続きを踏むことで相続人の共有財産とすることができます。
ただし「遺産分割協議」を行わなければ、相続人が自動的に決定することはありません。「遺産分割協議書」を作成したら、さらには株式を発行する企業に対して名義変更のための手続きを踏む必要があります。本記事では株式を相続する際の段階的な手順や、その際にかかることが予想される税金について解説していきます。
1章 株を相続するということ
この章では株式を相続するにあたっての具体的な手順とともに、相続と贈与の違いについて言及します。それぞれで異なる性質を持つため、まずは財産を相続するにあたって必要となる知識を身につけましょう。
株を相続するとは
遺産を相続するにあたっての具体的な手順としては、以下の通りです。
①相続可能な株を調査する
まずは証券会社や信託銀行から被相続人あてで届いた書類を元に、その会社に対して「取引残高報告書」、もしくは「評価証明書」を発行してもらえるよう請求します。この書面とは相続者の請求により発行されるものであり、被相続人が保有する株についての詳細が明記されています。上場企業であればこの手順で問題なく進められますが、上場していない中小企業ともなると話は別です。非上場企業であれば仲介役の証券会社等が存在しないため、必然的に株式を発行している企業へと直接問い合わせることになります。
②遺産分割協議をする
一般的な財産と株とでは相続に関する手順が異なります。株式の相続では法律に則って自動的に分配されるといった制度がなく、きちんと手順を進めていかなければ相続権を有する全員の共有財産として管理されてしまいます。相続人を一人に決めなければ名義変更もできないため、株の保有や売却に関して何の手順も進められません。以上の理由から、株式の相続では遺産分割協議を行って相続人を一人に絞る必要があります。
③株の名義変更をする
遺産分割協議を行った上で相続人が決まったら、今度は株式の名義変更を行います。この名義変更を正式には「名義書換」と言い、株式を発行している会社に問い合わせることで手順が進められます。名義変更する際に必要となる書類については、次項で詳しく紹介します。
相続にあたって必要なもの
名義変更に際して必要となる書類については、以下の通りです。
①株券
②共同相続人全員による同意書、もしくは遺産分割協議書
③相続による旨を示した株式名義書換請求書
④新たに株主として登録する相続人の株主票
⑤相続人全員の戸籍謄本
⑥相続人全員の印鑑証明書
⑦被相続人の出生から死亡までを記録した戸籍謄本
また被相続人が保有しているはずの株式がどうしても見つからない場合もあるでしょう。その場合には株式を発行している企業に対して「株券登録喪失簿記載事項」という内容で、「株券喪失登録簿」への記載を別途請求する必要があります。そうすることで記載してからの向こう1年間は株券そのものが無効になりますが、その手続きを踏まなければ名義変更を進めることもできないことを理解しておきましょう。
贈与と相続の違い
ここでは法的に定められた贈与と相続の違いについてそれぞれ説明します。
①贈与:
民法第549条にて、「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって、その効力を生ずる」としています。贈与が持つ性質としては以下の3点が挙げられます。
・片務契約
贈与は譲渡契約の一種として含まれ、財産に関しての責任を負うのはあくまで贈与者のみとされています。
・諾成契約
現行の民法では、贈与そのものが相手の許可を前提として想定されています。そのため強制的に贈与することはできず、被贈与者が拒んだ時点で成立しません。
・無償契約
贈与には被贈与者へと自身の権利を無償で譲渡するという性質があります。これにより被贈与者が何らかの担保責任を負担することは一切ありません。
②相続
民法第882条には「相続は、死亡によって開始する」とあり、また第883条には「相続は、被相続人の住所において開始する」ともあります。さらに第896条では「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています。こうした内容を前提として、相続が持つ性質については以下のように説明できます。
・相続順位
被相続人である血縁者の相続順位については、下記の通りに分類されます。
①被相続人の子供
②被相続人の直系尊属(親以外に最も親等が近い血縁者を指す)
③被相続人の兄弟姉妹
→被相続人の配偶者については、上記した相続人と同順位での相続人として扱われます。
・相続財産の共有
相続人が複数人である場合には、相続財産を共有するものとみなす性質があります。ただし株式においては、名義変更をする際に必ず一人を選出しなければなりません。
・遺産分割
株式では相続が決定した時点で共有財産の扱いとなりますから、保有か売却のどちらを選ぶにしても相続人を一人決めなければなりません。そのために相続人全員で行うのが遺産分割協議であり、この協議により決定した内容を書面にて記載したものが遺産分割協議書となります。
相続と贈与とでは有する性質が異なるのと同時に、承継した財産にかかる税率もそれぞれ異なります。次章では相続にまつわる税金に焦点を当てて解説します。
2章 相続にまつわる税金
株もまた財産であることに変わりはないため、相続か贈与のどちらを選んでも必ず税金がかかります。この章では株を相続する上でかかる税金について詳しく見ていきましょう。
株の相続税
株式の価値を評価するための株価には流動性があるため、預貯金のように単純にその金額を計算することは難しい部分があります。ただし上場企業の株式については、非上場企業と比べると幾分計算しやすくなっています。
株式市場に上場した企業であれば、「始値」、「終値」、「安値」、「高値」の4つの数値が一般に公開されています。株式の相続税について考える場合には、終値を用いることになります。
株価は日々変動していくため、終値にももちろん振り幅があります。相続人が極端に高い相続税により強度の負担を強いられないよう、以下の終値のうち最も安い終値を採用することが定められています。
a.亡くなった日の終値
→亡くなった日に取引がない場合には、直近取引時の終値がこれに相当します。また複数に分かれる場合はその平均額を算出します。
b.亡くなった日を含んだ月の全終値での平均額
c.亡くなった日を含んだ月の前月での全終値の平均額
d.亡くなった日を含んだ月の前々月での全終値の平均額
仮に証券会社への手続きが分からず取引残高報告書を発行してもらえない場合であれば、以下に挙げたデータを参考にして相続税の概算により大まかな金額を把握することが可能です。
・証券会社から定期的に届く月間報告書
・東京証券取引所の月間相場表
・インターネットで確認できるファイナンス情報
保有する株式が非上場企業のもの、もしくは何らかの特別な事情を有するものであれば、手続きがかなり煩雑になるため専門家に依頼することを推奨します。
また株式の売却を考えた際には、
①誰か一人の相続人へと名義変更する
②遺産分割協議にて財産の配分を決めておく必要がある
③売却時には譲渡所得税が別途発生する
これらの条件を別途考慮した上で行う必要があります。
株の贈与税
贈与を考える際に用いるのは終値と同じですが、贈与するタイミングを以下の条件に合わせることで節税対策を兼ねることができます。
①年間110万円以内であれば税金がかからないため、110万円以内の金額で随時贈与する
②直近3ヶ月で高騰した株式であれば、値上がりする前の終値で贈与できる
③配当や株主優待のある株式であれば、早急に贈与を済ませてその利益を被贈与者が取得する
また贈与税の計算方法としては以下の通りです。
{(贈与財産の合計金額)-(基礎控除額110万)}×税率-控除額=贈与税
相続税と比較してみると贈与税の方が節税効果を期待できることが分かります。ただし全ての財産を一度に贈与するとなると、高い税率が適用される可能性があります。そのため複数年に分けたり「特例税率」を利用することで、税金で支払う金額がより安く抑えられます。
・特例税率:
祖父母や父母などの直系尊属から、満20歳以上の子供や孫に対して贈与する際に適用される税率です。あくまで血縁者同士の贈与が対象となりますので、義理関係にある人間同士では適用されません。
国税庁の公式HPの情報によれば、贈与財産が1,000万円とした場合に一般税率では45%かかるところを、特例税率では40%に抑えられます。こうして見ると微々たるものに感じられますが、金額が大きくなるにつれそのわずかな差でも控除額が大幅に変わります。直系尊属間での財産の受け渡し方法については、贈与を優先して利用するべきでしょう。
また贈与税の特例として「相続時精算課税」という税制度があります。これは65歳以上の親から子供への財産の贈与に限り、2,500万円まで非課税とする制度です。ただしこの2,500万円を超える金額については、一律20%の税率がかかることは念頭に置かなければなりません。
その他税金
株式を相続後に売却した場合には、「相続税の取得加算費の特例」が適用されます。
これは相続人が株式を売却した際に、相続開始の翌日から3年10ヶ月経過する日までにその財産の権利を譲渡した場合、譲渡による所得で控除される取得費とは別に、譲渡財産分に応じた相続税額を加算する制度となります。つまりは相続税と譲渡による所得税との二重負担を緩和する意図でこのような制度が設けられています。
特に相続税額が多額のために、株式の売却を考える場合にはぜひ活用したい制度となります。たとえ株式売却により利益が出たとしても、その売却金にかかる税金が安く抑えられる可能性があるのです。
まとめ
以上のことからも分かるように、株式の相続を親子間でする場合には生前贈与が最も節税効果の高い相続方法となります。相続か贈与、いずれの方法をとるにせよ税金の仕組みについて知っておくことで、受け渡す財産の金額をなるべく減らさずに済むのです。今回の記事を参考に、株式の相続方法について一度検討してみてはいかがでしょうか。
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