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始めに
今年の9月18日、アメリカに本拠地を据えるトイザらス・インクが、連邦破産法11条に関する申請をバージニア州裁判所へと届け出た後に破産しました。負債総額は52億ドル(日本円で5,800億円)に達すると報じられており、これに対してトイザらス・インクはアメリカの大財閥である「JPモルガン」から、30億ドル相当の融資を一時的に受けることを了承しました。
現時点においてもトイザらス・インクの子会社にあたるトイザらスへの影響が懸念されるところですが、2010年の時点で上場廃止をしてしまったために、業績に関する詳細は定かではありません。株主の意向に沿う施策では活路を見出せないと踏み、トイザらスはTOB(株式公開買付)を行なった結果として上場廃止となりました。
2016年12月に生誕25周年を迎えたばかりのトイザらスですが、本記事では上場廃止までの推移に焦点を当てて解説します。
1章 これまでのトイザらスの業績
トイザらス・インクが破産申請を出した後でも、日本トイザらスは債務の影響を受けることなく経営を続けています。TOBの際に株主となった「ティーアールユー・ジャパン・ホールディングス・エルエルシー(以下、TRUJとする)」と「ティーアールユー・ジャパン・ホールディングス2・エルエルシー(以下、TRUJ2とする)」は、トイザらス・インクの出資により成り立つ完全子会社です。そのTRU社が実質的な経営権を握った後に、トイザらスはトイザらス・インクの完全な子会社になることを決意するのです。
この章では上場廃止までの概略を説明するとともに、トイザらスが打ち立てた過去の業績や施策について振り返ります。
トイザらスの歴史
トイザらス自体の始まりは1989年、日本マクドナルド設立に貢献したとされる藤田氏が、トイザらス・インクと提携したことによるものでした。
当初はトイザらス・インクのフランチャイズ店として、1号店である荒川沖店をオープンしました。そのオープン時期がちょうど日米貿易摩擦の只中であったため、トイザらスの名は広く世間に知れ渡るところとなります。
続く2号店となる奈良県の橿原店は、オープン前日にジョージ・H・W・ブッシュ米国大統領が視察のために来日したことで有名になりました。ブッシュ大統領の警備の都合により、橿原店のオープン日は1月8日まで延期されましたが、その際にも非関税障壁解消への糸口として注目を浴びました。その後オープンした新潟店についても日米構造協議に際して注目されたりと、アメリカとの貿易問題でトイザらスの店舗は度々話題になりました。
以降も着々と新規オープンを続けたトイザらスは、設立当初に掲げた「2000年度100店舗達成」という企業目標を、2009年に入り無事に成し遂げました。2017年現在では全国約160店舗を展開するに至り、ベビー用品を取り扱う姉妹店である「ベビーザらス」についても、約40店舗を経営しています。人口過密地域に当たる関西・関東地方への出店については、商品点数の豊富さを武器にするため、あえて郊外の土地を活用して敷地確保に努めます。
また2007年4月には、トイザらスおよびベビーザらスを併設した複合型店舗となる、「サイドバイサイドストア」を新規オープンしました。これは子供の成長ステージに合わせて必要とされる商品が異なることにより、成長が進むにつれ複数店舗を利用しなければならない手間を取り除くという発想から生まれた、新機軸の店舗となります。こうした新たな発想の併設型店舗を以後も、年間10店舗計画で続々とオープンしていきます。
そして来る2010年2月20日に、TRUJとTRUJ2とに株式をほぼ購入されたことで、経営権を掌握されることになります。それは併設型店舗の拡大に向けて動き出した、わずか3年後のことでした。
その約2ヶ月後、トイザらスはトイザらス・インクの完全な子会社と化したのです。しかし非上場企業であるTRUJとTRUJ2へと経営権が渡されると同時に、トイザらスは画期的な施策を次々と打ち出し、新規顧客の獲得へと挑んでいきます。
そして2012年にはトイザらスおよびベビーザらスの公式アプリをリリースし、デジタルマーケティングも視野に入れていることを強調します。こうした実店舗とオンラインストアとの両面からの施策を組み合わせることで、潜在的な顧客をどうにか取り込むための準備を着々と進めていきました。
近年のトイザらス
近年のトイザらスに関与する大きなニュースとしては、以下の2点が挙げられます。
・トイザらス・インクによる、トイザらスの完全子会社化
→トイザらスのTOB時に株式を購入し経営権を掌握したとされるTRUJとTRUJ2とは、トイザらス・インクの子会社に当たります。そのためトイザらス・インクは当初、上記2社を利用して全株式の独占を行い、トイザらスの完全子会社化を図りました。TRU社が買い占められたのは全体の約90%に留まりましたが、結果としてトイザらスを完全子会社とする狙いは成功しています。
・トイザらス・アジア・リミテッドへの加入
→トイザらスが加入したトイザらス・アジア・リミテッドとは、トイザらス・インクが約85%の資金を出資している合弁会社となります。この合弁会社とは、国内企業および外国企業によって、共同出資の下に経営される企業を指します。トイザらス・インクとは別の法人として登録されており、トイザらス・インクの破産申請による直接的な影響を受けることは確かにないかもしれません。しかしトイザらス・インクが資金のほとんどを出資していることは明白であり、そこから派生するトイザらス・アジア・リミテッドの財務問題により、トイザらスもまた何らかの影響を受ける可能性は十分考えられます。
トイザらスは上場廃止という結果を憂き目ととらえることはなく、むしろ攻めの経営に転じる好機としたのです。
トイザらスの施策
近年の状況を踏まえた上でのトイザらスの施策としては、以下のようになります。
・サイドバイサイドストアの店舗数拡大
・シニア向けの割引サービスとして、「シニア・プレミアム・デー」の開始
・オンラインストアのリニューアル
・スタジオアリスとの提携による、各イベントに即したキャンペーン開催
・ブラックフライデーの開催
上場廃止後になりこれらの施策を打ち出したトイザらスですが、廃止前では株主への配慮からこうした施策さえも講じにくい状況にあったことは否めません。次章ではそうした部分も含めて、上場廃止までの流れについて解説します。
2章 トイザらスの株
この章ではトイザらスが上場廃止までに至る業績の推移や、その後に行なった株の処理について説明します。
上場廃止までの業績について
まずは上場廃止前後に当たる業績の推移について、以下の項目ごとに見ていきましょう。
・2008年9月
→トイザらスが発表した2009年度1月期の中間決算によれば、営業利益は前年比約8%減となる約755.1億円となりました。また当期損益は約32.2億円、経常損益は約28.6億円という結果が出ています。ベビー用品およびスポーツ用品は増益である一方、家庭用ゲーム機ならびにソフトについては約169.6億円となり、前年比31.8%減まで低迷しました。経費削減を励む一方で新規顧客の獲得に向けた広告宣伝費がかさみ、結果として営業損失が約26.9億円まで膨れ上がったのです。
・2008年11月
→同年10月にトイザらスが発表した売上報告によれば、全店における利益は前年より3.9%減少、客数と客単価についても2.8%減と1.2%減となり、全ての数値において減少傾向が見られました。各商品における販売実績については変動幅こそ少なく推移したものの、全体的な利益としては前年を下回る結果となりました。この時点での店舗内訳としては、主戦力として本格始動したサイドバイサイドストアが16店舗、トイザらスが131店舗、ベビーザらスが20店舗でした。
・2009年2月
→トイザらスの既存店3店舗をサイドバイサイドストアへとリニューアルすることにより、サイドバイサイドストア20店舗体制へと持っていきます。複合型店舗の充実により利便性の向上に努めることで、新規顧客の獲得も期待できると踏んだトイザらスは、この時点で前年比20%を上回る増益を見込みました。
・2009年4月
→サイドバイサイドストアを含めた3業態において利用できる、専用ポイントカードを新たに導入します。入会金および年会費を無料にすることで、新規顧客の獲得を後押しするための施策として打ち出されました。
・2009年9月
→同月3日に発表した2010年度1月期の利益としては約697.4億円となり、2008年度よりもさらに7.6%減になりました。営業損失や経常損失、当期損失の増額に歯止めをかけることはできましたが、利益面が伴わなかったためにさらなる減益を出す結果となりました。そして同月25日から行われたTOBにより、TRU社はトイザらスの株式を約90%所有します。
業績が徐々に低迷する状況下で、安定性のある施策ばかりでは増益が叶わないと踏んだトイザらスは、TRU社主導の下でTOBを行いついには上場廃止へと至ります。
上場廃止後の処理について
上場廃止が決定した後の株主への最たる対応として、株の処理があります。トイザらスが行なった処理方法の概略としては、以下のような内容になります。
①TOBが決定した時点で、トイザらスは全株主に対して持株を市場にて売却するよう、まずは書面にて働きかけました。また同書面において、この働きかけに応じない場合には上場廃止後にトイザらス自身が買取価格を決め、強制的に買い取る旨を伝えました。
②これはあくまで個人株主から株を回収するための措置であり、たとえ強制買取に応じない場合でも、トイザらスは合法的に自社株を端株へと変更することが実質的に可能でした。端株にさえすれば発行した企業が自ら買い取らなければなりませんので、TOBの手続きが進んだ時点で個人株主は持株を手放さざるをえなくなるという訳です。
まとめ
上場企業であればこそ株主への配慮を優先し、施策の自由度が制限されることもあるでしょう。トイザらスはそうした上場ゆえの制約から解放された時点から、業績拡大のために攻めの施策を講じる方針を堅固なものとしました。トイザらス・インクの破産の余波を感じさせず引き続き経営しているトイザらスですが、今回のように通販事業や大型量販店に押しつぶされるリスクが今なお懸念されます。
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