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はじめに
世界最大の金融街として有名なウォール・ストリートにおいて、現在の世界経済の指標ともされるNYダウが誕生しました。このNYダウとは「ダウ平均」、もしくは「ダウ工業株30種平均」とも呼ばれることがあり、株式投資を行う者としては知っておくべき存在です。このNYダウの数値によっては世界経済が傾くこともありますので、株式とは無関係の職種に就く人でさえNYダウを逐一確認するほど、NYダウの影響力は計り知れないものがあります。
そこで今回の記事では、NYダウの概要と日本経済への影響について解説します。株式投資を行う上で経済状況の把握は必須であるため、NYダウを含めた経済指標の意味は理解しておく必要があります。NYダウが世界的に信頼される理由について、以下で詳しく見ていきましょう。
世界経済の指標「NYダウ」とは?
この章ではNYダウの概要について紹介していきます。厳密に覚えておく必要はありませんが、株を嗜む者として教養程度に知っておいても損はないでしょう。
NYダウとは
様々な呼び名を持つNYダウですが、その正式名称とは「ダウ・ジョーンズ工業株価平均」と言います。アメリカの主要な経済指標として知られるNYダウは、アメリカの経済紙である「ウォール・ストリート・ジャーナル」を発行するダウ・ジョーンズ社がアメリカ国内の経済事情を考慮しながら算出しているものです。このNYダウもまた人間が定めた数値である以上、所定の計算式によって算出することが可能となっています。その計算式とは以下の通りです。
NYダウ=30銘柄の株価の総額÷30×除数
・除数
→「30銘柄の株価の総額」の部分において、時代の状況に合わせて複数の銘柄が一度に入れ替わることもしばしばあります。入れ替わりが起こった時点で株価の総額が動き、NYダウの数値自体も変動してしまうことになります。そうした誤差が出ることを防ぐために除数という数値があらかじめ設定されており、この数値については都度微調整されています。
NYダウを算出するために選ばれる30銘柄はアメリカ国内の優良企業であることはもちろん、時代の流れに合わせて随時入れ替えられています。そのためNYダウの30銘柄の業績が全て右肩上がりであれば、アメリカ国内の景気が良いことが分かります。
このNYダウを日本経済新聞社が模倣して算出したものが、日経平均株価となります。ただし日経平均株価は日本国内の225銘柄を選出するのに対し、NYダウはわずか30銘柄しか選出しません。これは何故かというと、NYダウが生まれた時代背景によります。
およそ120年前に考案されたNYダウは当時手計算だったため、なるべく最小限まで銘柄を絞り込んだのだと推測できます。コンピュータによる自動計算が可能となった今ならば銘柄を増やせそうなものですが、現在でも考案当初とほぼ同じ計算式でNYダウを算出しているのです。こうしたことからも、NYダウが時代を問わず活用しやすい普遍性の高さを持つことがうかがえます。
NYダウの歴史
NYダウの正式名称であるダウ・ジョーンズ工業株価平均という響きから分かるように、NYダウ自体はそもそも工業株のみを選出するために考案されたものでした。当時隆盛を極めた鉄道事業の銘柄を中心とした12社だけで組まれたNYダウは、時代の変遷とともに趣旨が少しずつ移り変わり、現在では時代を先導する様々な業界の優良企業30社における銘柄の株価平均を扱うものになりました。
株価平均の算出をし始めてすぐの頃は、誤差どころではない過大な振り幅が見られることが頻繁にありました。特に暴落の場面について言及すれば、1987年に起こった「ブラック・マンデー」や2008年に起こった「リーマン・ショック」が、NYダウが世界経済を揺るがした事件として特に有名です。
①ブラック・マンデー
1979年に起こった第2次オイル・ショックを契機とした大暴落です。そもそもの原因が単一ではなく複数あることから、その原因は詳細には解明されていません。その具体的な原因としては、以下の通りです。
・双子の赤字の拡大
→当時の大統領であったロナルド・レーガンは減税と軍備強化を同時に施行したため、アメリカ国内の財政は既に赤字へと傾いていました。国債発行により金利が上がったことによるドル高とともに、減税による消費量の拡大により輸入が拡大していきました。以上のことから財政赤字と貿易赤字という、2種類の赤字が同時に拡大したのです。
・自動売買プログラムによる赤字拡大
→自動化が進めば何事も便利になるかと言えば、実はそうではありません。投資家たちの間で自動売買プログラムが普及した当初、設定した株価を下回った時点で、損切り用として自動で売りに出されるよう設定されていました。しかしそのプログラムのせいで同時多発的に売りが起こることになり、結果としてアメリカ国内の赤字を強める方向に動いたとされています。
・ルーブル合意の破綻
→プラザ合意に由来するドルの暴落を止める目的から、新たな政策協調に乗り出すもその足並みが揃うことはありませんでした。ルーブル合意の信頼性のなさから政策協調に失敗したアメリカ株は、為替ヘッジを行なっていなかったがために資産を手放さざるを得なくなった投資家たちから投げ売りされるはめになりました。
これらの原因がほぼ間を空けず起こったことから、ブラック・マンデーは世界経済を揺るがす事態となりました。日本もまた少なからずその影響を受けていたのですが、ブラック・マンデーが発生する一年前からバブル期に突入していた経緯から、ブラック・マンデーの被害から最速で回復することができました。
②リーマン・ショック
アメリカの大手投資会社リーマン・ブラザーズが経営破綻したことにより起こった、世界規模の経済危機のことを指します。その兆候は一年前から見られていたとされ、主に3つの原因からリーマン・ショックが起こったとされています。その具体的な原因とは、以下の通りです。
・サブプライムローンの問題が露呈
→好景気で楽観的になっていたアメリカ国内では、低所得者にも住宅が購入できるようにしたサブプライムローンが一世を風靡しました。しかしローンを組んでから一定期間が経過すると金利が高くなるため、低所得者層から債権を回収することは当然できませんでした。そのため資金繰りに窮したニューセンチュリー・ファイナンシャルが経営破綻を起こしました。
・劣悪なデリバティブの横行
→サブプライムローンの問題が深刻化する一方で、ローン会社は銀行に債券を売り、その銀行は債券を証券化することで投資家たちに購入できるようにしました。このモーゲージ債以外にも実用性に乏しい金融商品を発売したにもかかわらず、リスクが低い割にリターンが高く期待できるデリバティブ(金融派生商品)として人気が集中しました。ただしローン会社は預かった債券そのものを他社に売り飛ばすことで利益を上げたため、債務者に支払い能力があるかどうかをきちんと審査することはありませんでした。
・住宅バブルの崩壊の未回収
→売り手の不足した住宅が国内に溢れかえったことで、地価や不動産価格が暴落したとともに、サブプライムローンを組んだ利用者は次々と住宅を手放していきました。住宅を手放すとローンの返済義務が失効するため、サブプライムローンは不良債権へとすぐに変化していき、世界経済の不安材料として知られることとなりました。これにより保有していた投資家たちがサブプライム関連銘柄を投げ売りすることを惹起し、市場は大きく混乱しました。その影響を色濃く受けたのがサブプライムローンの引受手であったリーマン・ブラザーズでした。
通常であれば大手金融機関やアメリカ政府が救済策を講じるものですが、その負債額があまりに莫大であったため、どこにも救済されることはありませんでした。これはアナリストや指標を過信したあまり起こった世界規模の暴落であり、投資家たちが自分の分析力を養うよう求められる一大事となりました。
NYダウではこうした事態により大混乱が起こるリスクもありますが、一方の日本は株価の値幅制限があるため、アメリカほど市場がかき乱される心配はないとされています。ただ現在でも「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれる瞬間的な暴落は起こり続けていますが、大抵は数分程度で収束しています。そのため株式投資に手を出している投資家でもフラッシュ・クラッシュが起こっていることにさえ気づいていない場合もあります。
NYダウに選ばれている銘柄の特徴
NYダウに選ばれている銘柄の特徴として、金融関連銘柄が最も比重を占めています。また最近になって30銘柄に選ばれたアップルが属するテクノロジー関連銘柄は中程度の比重となっています。全体的にそれほど偏ることなく業種が分散されているとともに、30銘柄の一員としてどの有名企業を選出するかでもNYダウの指標としての信頼性が継続的に問われることはまず間違いありません。
NYダウの与える日本経済への影響
この章ではNYダウの与える日本経済への影響について解説します。国際化が進むにつれて相関性が深まる一方のNYダウと日本経済ですが、実際にはどのような影響が考えられるのでしょうか。
NY証券取引所の稼働時間と日経平均の関係性
NY証券取引所の稼働時間は午前9時30分から夕方の4時までであり、日本時間で言うところの午後11時30分から早朝6時までとなります。これにより東京証券所が稼働する前にNY証券取引所が稼働していることから、日経平均はアメリカ市場の影響を少なからず受けていると言えます。
NYダウの暴落と世界経済との関係
NYダウが暴落することで世界経済もまた大きく揺らぐことは1章で前述した通りですので、ここでは割愛します。
NYダウは暴落してもすぐに戻る?
最近ではAIによる大量かつ高速の株の取引が行われることが通例であり、フラッシュ・クラッシュのような頻発する急落の影響を最小限に留める目的から、「サーキット・ブレーカー制度」が新たに作られました。
この制度が適用される条件としては、株価の10%以上の値段が5分間を超えて変動する場合が挙げられ、適用されればその銘柄の取引を強制的に停止することになっています。そのためNYダウの暴落については、以前に比べればすぐに戻りやすくなったと言えるでしょう。
まとめ
NYダウの影響力は確かに強大なものですが、それに歯止めをかける抑止力となる対策も少なからず用意されています。ただし歴史的に有名な大暴落をアメリカが経験する都度、それに応じた経済対策を早急に講じることで、NYダウ自体もまたより高い信頼を得るような指標へと進化しています。
NYダウだけでなく経済指標が暴落した際には割安株を仕入れるチャンスでもあるので、習慣的にこれらの指標を確認する癖をつけておくと、後々で稼ぎやすくなることは言うまでもありません。
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