2019年の米株式市場はウーバー・テクノロジーズやリフトなどIPO(新規株式公開)ラッシュとなっていますが、今年4番目の規模のIPOとして話題になったのがZoomです。
ビデオ会議システムの雄Zoomは注目IPO銘柄として人気化していましたが、4月18日、ナスダックに無事に上場を果たし、上場後も順調な業績を背景に株価を切り上げています。
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Zoomはどんな企業か
Zoomの設立までの経緯
ビデオ通信企業Zoomを設立したエリック・ヤン(Eric Yuan)氏は、単身中国から渡米し、1997年から最初のエンジニアの一人としてWebExの開発を担当しました。
その後、WebExがCiscoに買収され、ヤン氏はCiscoで最終的に技術部門のVice Presidentを務めました。
Ciscoの傘下となったWebExは、ヤン氏の指揮下で、当初10名しか在籍していなかったエンジニアが800名以上に増え、収益は8億ドル以上になったといいます。
しかし、ユーザーと対話する中でWebExの顧客満足度の低さに失望し、WebExの再構築をCisco内で提案しましたが、会社を説得することができず、Ciscoを去ることとなり、2011年にカリフォルニア州サンノゼを本拠としてZoomを立ち上げました。
Zoomは設立後、急速に成長を遂げ、2018年には時価評価額が10億ドル超に達してシリコンバレーのユニコーン企業(企業としての評価額が10億ドル(約1250億円)以上で、非上場のベンチャー企業)へと足を踏み入れました。
同年、Zoom創始者のヤン氏は、米国の求人サイトGlassdoor が選ぶCEOランキング2018で99%の従業員支持を集め、最優秀CEOにも選ばれています。
ヤン氏の率いるZoomはその後も堅調に成長し、上場を契機に市場でさらに大きな話題を呼ぶこととなりました。
Zoomとは何か
Zoomの正式名称はZoom Video Communications(ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ)です。
クラウドベースの企業向けビデオ会議システムを手がけていて、設立から短期間で加速度的な成長を遂げている会社です。
Zoomが属するビデオコラボレーション分野は競争の激しいマーケットで、MicrosoftやCisco Systemsなど大手企業がひしめいていますが、Zoomはダークホースとして徐々に頭角を現していきます。
というのも、Cisco WebExやApple Facetime、Google Hangoutなどほとんど同じ時期にリリースされたコラボレーション製品に対するユーザーの評価は概して低かったにもかかわらず、Zoomの製品の評価は極めて高かったのです。
Zoomで何ができるのか
Zoomは2011年に設立してサービスを開始してから、瞬く間に利用会員数100万人を超える人気ツールに成長を遂げました。
2016年から日本語でのサポートが始まり、国内でのシェアも企業や教育関連をはじめとする様々な分野で急速に増加しています。
Zoomの主な特徴を列記すると以下のとおりです。
★主催者が送った招待URLを1クリックするだけで接続できる
★多様な端末から繋がる
★1クリックで録音できたり画面が共有できるなど、操作が簡単
★リモートコントロールできる
★最大で500人で同時接続しても接続が安定している
★画像と音声のクオリティが高く、実際に合っているといった感覚になれる
★参加者を3~5人の小グループに分け、充分話し合った結果を参加者全体で共有する機能があり、深い相互交流が可能になる(ブレイクアウト機能)
★ビデオ会議室の月額料金が2000円と低コストで導入できる
今後のバージョンアップで、音声のテキスト化や自動翻訳などAIを使った機能が組み込まれる可能性もあり、最も進んだビデオ会議ツールとして成長すると期待されます。
また、Zoomの特徴のひとつは安価であるという点ですが、具体的には無料で使える基本プランと、有料のプロプランがあります。
両者の違いはミーティング時間と録画方法です。
基本プランのミーティング時間は40分間、録画方法はパソコンに録画する「ローカル録画」のみですが、プロプランのミーティング時間は24時間で、サーバー上に録画する「クラウド録画」と「ローカル録画」の2通りを選択できます。
このほか、10以上のアカウント購入者用ですべてのプロ機能を使えるビジネスプランなどもありますが、口コミで使いはじめ、Zoomのビデオ会議室のファンになるという連鎖でユーザーが世界中に広がっています。
Zoomが支持される理由
ユーザーはテレビ会議の画質や音声のクオリティアップを求めています。
これに対して大企業の既存のコラボレーションソリューションでは顧客のニーズに的確に応えられるソリューションが提供できていないということにヤン氏はビジネスチャンスを見出しました。
オンライン会議ソフトウェアの改善を進めて顧客のニーズに的確に応えられれば、顧客が自ずとついてくるという信念の元、ヤン氏はクラウドを活用したプラットフォーム「Zoom」を設立しています。
ZoomがIPOにあたり米証券取引委員会(SEC)に提出した書類でも、同社が大企業でも小規模チームでも同じ様に、「きちんと機能する」コミュニケーションプラットフォームを提供しており、「口コミで広まるような強い関心」を生み出していると述べています。
実際、他のソフトウェアと比較して、Zoomの最大の利点はその使いやすさにあるといえます。
ダウンロード後、アカウントへログインするだけで、すぐに複数人と通信を開始することができます。
既存の電話会議ツールやチャットツールに動画機能を追加しようとするのが他社のアプローチで、そのため、他社ソフトウェアではサーバーとネットワーク環境の不安定性によりオンライン通話が途切れてしまうことがあります。
それに対して、Zoomはクラウドでの使用を前提として、動画の配信を安定化・最適化する技術を有し、比較的スムーズな通信を可能にしている点で優位に立っているといえます。
ヤン氏も対談で
「われわれのプラットフォームはフェイストゥフェイスのビデオを提供しており、そのために構築された。
既存プロバイダーのプラットフォームは、スクリーン共有とオーディオ向けに構築されているため、当社のビデオと同様には機能しない」
と述べています。
Zoomの上場
ZoomのIPO
Zoomは2019年4月17日にIPOを実施し、1株36ドルで2090万株を売却して7億5100万ドルを集め、IPO規模でリフトの23億4000万ドル、トレードウェブ・マーケッツの12億4000万ドルなどに続く米市場で今年4番目の大きさだったことが話題となりました。
Zoomは4月18日に米ナスダック市場に上場しましたが、初値は62ドルとナスダックデビューをIPO価格の36ドルに対して81%の上昇で飾りました。
IPO後、株価は198%上昇
さらに、株式を公開したことにより、Zoomのビデオコミュニケーションプラットフォームがさらに広く企業に認知され、受け入れられたことから、今期第1四半期(2月~4月)の売上高が前年同期比109%増の1億2200万ドル(約132億円)を計上。
1株あたりの利益も3セントといずれもアナリストの予測を大幅に上回りました。
これを受けて6月5日に株価は急騰して79ドル超と2%上昇し、IPO後のわずか2か月で同社の株価は2倍超を達成しました。
その後も人気は衰えず、6月20日には公開価格から198%上昇して、107.34ドルの上場来最高値をつけました。
Zoomの今後と株価動向
Zoomは2020年1月期の通年見通しとして、年間売上高を前年比62%増の5億3500万ドル~5億4000万ドルと見込んでおり、成長が続くとの期待も高まっています。
また、当初は英語圏の国に普及していましたが、その後はフランス、ドイツ、日本に商圏を拡大し、現在では180か国に広がっています。
売上高の18%が海外となっており、今後の海外の増収余地は極めて大きいといえるでしょう。
ビデオ会議市場は、2020年で430億ドルに成長するとされる巨大市場です。
Zoomのビジネスモデルは、まずセルフサービスでユーザーに試しに使ってもらい、その後、フィールド・セールスが顧客にアプローチする営業手法を採用しています。
Zoomを利用するユーザーがユーザーを拡大していくというビジネスモデルのため、広告費をかけないユーザー獲得を実現しています。
マーケティング効率だけではユーザーは獲得できないので、やはりユーザーの立場に立った満足度の高いサービスを提供し続けて実った結果といえます。
クラウドベースのZoomは、実用的な事業モデルと、さまざまな業界に向けて実証済みの営業戦略を導入しています。
また、ヒューレット・パッカードなど企業とも提携して、オフィス分野でのプレゼンス強化に取り組んでいます。
Zoomが提供するサービスの代表的な利用企業としては、配車アプリのUberやチャットツールのSlackなどが挙げられますが、今後も大手企業の利用はさらに増えていくことが予想されます。
クラウドをベースに、デベロッパー(開発業者)が使いやすいオープンAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース) ※システムの接続仕様を外部の事業者に公開し、契約先のアクセスを認めること※ を採用し、特別のデバイスを必要とせず、スマホなどを通じてどこからでもビデオ会議に参加できるシステムとしました。
この結果、極めて操作が簡単で、なおかつ信頼性の高いサービスが完成したのです。
サブスクリプション・モデルで収益は安定
Zoomは、いわゆるサブスクリプション・モデル(定期購読制)を採用しています。
顧客の離反は極めて低く、顧客がより高額なプランに変更することによる売上高の伸び(エクスパンション・レート)が前月比で+130%と比較的高めの数値を維持しています。
サブスクリプション型のビジネスモデルは、インターネット経由でサービスできると非常に強大な力を持ちます。
サブスクリプション型のビジネスモデルのメリットは3つあります。
1つ目は顧客情報が集まり、データを活用しやすい点です。
2つ目は顧客を囲い込みやすい点です。
同じ料金でそのまま新しいソフトウエアを使用してくれるので、新たな広告やマーケティングに経費をかけずに済み、他社に移行する顧客も少なくなります。
3つ目は値段を柔軟に設定し、将来のキャッシュフローを予測しやすくできる点です。将来の収入が予測しやすく、財務計画を立てやすくなります。
Zoomは黒字上場でしたが、サブスリプション型ビジネスの企業は赤字でも上場するのが妥当などといわれる理由がここにあります。
まとめ
多くの可能性を秘め、今後の成長期待も高いZoomの魅力に迫ってみました。
日本国内でも、Zoomのテレビ会議に触れる機会が多くなると予想されます。
Zoom株を売買する場合はナスダックでの取引になりますが、働き方改革関連でも大きな可能性を秘めた銘柄なので、株価動向に注目していただければと思います。
IPOについても、今後、国内でもZoomのような圧倒的優位性を持つユニコーン企業のIPOが次々と行われることでしょう。
企業の株価を決定する最大の要因は、何といってもその企業の業績、収益力です。IPO投資する際には、Zoomの例を参考にしていただければ幸いです。
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