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はじめに
自分の財産として保有している株式を例えば親子間で、あるいは祖父母と孫間で株式を譲渡してやりたいと考えることもあるかと思います。譲渡する際には贈与税という税金が別途かかることから、譲渡する以外でも相続するという方法で株式を手渡すことも検討している方もいるかもしれません。ただしこちらについても別途相続税がかかることは言うまでもありません。それでは譲渡と相続のどちらのやり方を選ぶ方が、節税効果が表れやすくなるものなのでしょうか。
そこで今回の記事では、株式の譲渡に関する基礎知識について解説します。株式を始めてから年数が経っていると、こうした基礎知識であるほど誰かに聞きにくくなってしまうことがあります。適当な方法で株式を手渡したことによって割を食わないよう、これを機に譲渡について一から学び直してみましょう。
株式を譲渡する
この章では株式を譲渡することについて解説します。ここではまず譲渡と相続では何が違うのか、かかる税金はどのように算出されるのかについて触れていきます。次章での実践的な話に入る前の準備段階として、手始めに譲渡の基礎知識から見直しましょう。
株式を譲渡するタイミング
株式を譲渡したいと考えるタイミングも人によって様々でしょうが、個人間であれば働き盛りを過ぎた株主が、自分の子供や孫に何らかの財産を残したい場合に譲渡を考えることが多くなるかもしれません。その一方で中小企業における家族間であれば、事業継承とともに株式譲渡を考える場合がほとんどです。
個人か企業絡みのどちらにせよ、通常であれば譲渡するには贈与税がかかることはまず避けられません。ただし株式を譲渡するタイミングや、一度に手渡す金額を調節することで非課税扱いとなり、節税対策にも役立てられる方法も中にはあります。その詳細については、次章で詳しくお話します。
譲渡と相続
そもそも株式の手渡し方には譲渡と相続とがある訳ですが、皆さんはこの二者がどのように異なるのかご存知でしょうか。その具体的な違いについては、以下の通りです。
・譲渡
株主としての権利を特定の契約により、別の誰かに移転することを指します。譲渡にも有償か無償かの2種類があり、譲渡する際にお金が対価として支払われるかどうかでも種類分けすることができます。
無償の譲渡では譲渡される側からお金を支払う義務がないため、贈与もしくは寄付とも呼び変えられます。対して有償の譲渡では譲渡される側から譲渡する対価としてお金が支払われるため、譲渡と言うよりは売買と言った方が正しいかもしれません。
また譲渡が法律的に成立する条件として双方が合意する契約によるものであることが前提となるため、贈与や売買などそれぞれの呼び名は様々でも一貫して「財産移転契約」によって初めて成立することは確かです。ただし法律的な解釈はかなり難解で一般人には分かりにくいこともあり、株式譲渡については一般的な譲渡でイメージできる内容と同じものくらいに理解しておいた方が、自分の知識として整理しやすいでしょう。
・相続
株主としての権利を持っていた人が亡くなった際に、死亡した人の親族へとその財産が分配されることを指します。
また相続人となる人間には順位が法律上で定められており、子供、父母や祖父母、兄弟姉妹の順番で第1順位、第2順位、第3順位が割り振られることになります。また株主に配偶者がいた場合には上位の相続人扱いとなるため、優先的に財産が割り振られることは念頭に置く必要があります。
また株式を相続しようとすると、贈与税同様にその価値を評価する時期によっても相続税が大きく異なってきます。そのため株価が下落した時点での評価を受けることでも、節税対策として役立てることができます。
以上の内容を踏まえると株式の権利を手渡すタイミング、手渡したい人や金額の配分を自由に決めやすいかどうかでも微妙に異なることが分かります。それではこれら2種類の手渡し方のどちらを選べば、より節税効果が表れやすいのでしょうか。
税金はかかるの?
譲渡と相続のそれぞれについて別途税金がかかることは前述した通りですが、譲渡する際にかかる贈与税は株主の生前に、相続する際にかかる相続税は株主の死後に発生することになっています。結論から言えば譲渡を効率的に利用することで節税効果が高くなるのですが、これについては次章でより詳しく掘り下げます。
株式を譲渡するなら
この章では株式を譲渡する方法について解説します。株式もまた自分の財産である以上、可能であれば受け取る家族の負担を減らしながら誰かに残してやりたいと考えるのは当然のことです。それでは具体的にどのような方法で手渡すべきなのでしょうか。
譲渡と相続、どちらがお得?
譲渡と相続とではどちらがよりお得に株式を手渡せるのかについては、以下のようになります。
・相続の場合
相続税では亡くなった人の全財産を集計し、まずは基礎控除を財産の総額から差し引きます。ここで基礎控除以内に収まれば申告の必要はありませんし、基礎控除を上回る分に関しては相続税が別途かかることになります。相続税の有無を知るために必要な基礎控除の計算方法については、以下の通りです。
基礎控除=3000万円+法定相続人の人数×600万円
この方法で算出した基礎控除額を上回った財産に関しては、以下のような税率がかけられます。
・1千万円以下=10%
・3千万円以下=15%
・5千万円以下=20%
・1億円以下=30%
・2億円以下=40%
・3億円以下=45%
・6億円以下=50%
・6億円以上=55%
たとえ1千万円以下に収まったとしても、最低10%は相続税が発生することは念頭に置く必要があります。
・譲渡の場合
その一方で贈与税では年間110万円まで非課税となります。ただし財産を譲渡された本人が贈与税を支払わなければならないため、その点については注意が必要です。
この贈与税とは譲渡される側が貰った財産の総額が110万円を超えるかどうかで、課税の有無が決定されます。つまりは複数人に対して年間110万円ずつを譲渡した場合であれば、各人にかかる贈与税は一切ありません。そのため譲渡する際の人数をなるべく多くして財産を分散することで、節税効果が表れやすくなります。
ただし株主本人が亡くなる前の3年以内の譲渡の際には、生前贈与そのものがなかったことにされてしまいます。これは「3年内加算のルール」とも言われており、もしも株主が亡くなる3年以内で譲渡されてしまうと、相続扱いとして相続税がかけられるのです。このルールがあることから分かる通り、生前贈与を利用したい場合であれば早期の段階から進めていくことが重要です。
また贈与税はその財産を譲渡する人により2種類に分けられます。20歳以上の子供や孫、ひ孫が譲渡対象であれば、それ以外の人が対象の場合に比べて税率が若干優遇されるというものです。ただ410万円以内での生前贈与であれば同率となりますので、その金額以内で収まるようであればそこまで気にする必要はありません。それぞれの贈与税に関する税率について気になる方は、詳しく調べてみてください。
ここまでの内容をまとめると、少額での贈与、相続税、500万円以上の高額での贈与の順に節税効果が低くなるということになります。
税金を安くするためには
それでは本題である税金を安くするための方法とは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。最小限で税金を抑えたいと考えた際に利用できる方法が、以下で紹介する生前贈与のこまめな活用になります。
財産の総額が1億円以上に上る方であれば、生前贈与で毎年少しずつ株式を割り振っていく方法がおすすめです。
例えば非課税である110万円を譲渡したい人それぞれに毎年手渡しておけば、将来的にかかるであろう相続税は安く済みます。将来的な減額が見込まれる相続税の計算方法については、以下の通りです。
減額見込みの相続税=生前贈与した金額×その相続人にかかる最も高い税率
要するに生前贈与をすればするほど、後々の相続税で得をすることができるのです。年間110万円以内と聞くと全くお得ではないように聞こえるかもしれませんが、その活用方法によっては節税効果を高くすることも可能となります。譲渡される側の負担を少しでも減らしたいと考えるのであればこそ、生前贈与を上手に活用していくといいでしょう。
その他譲渡にまつわる注意点
株式の贈与に関して注意点があるとすれば、それは株式の評価をいつ頃受けるかという点です。株式の評価では以下の1〜4のうちで、最も低い金額が反映されることになります。
①贈与日の最終価額
②贈与月の日々の終値における平均価額
③贈与月の前月の日々の終値における平均価額
④贈与月の前々月の日々の終値における平均価額
これは贈与した日の2ヶ月前からの株価を判断材料とするため、現時点ではたとえ株価が値上がりしていたとしても、2ヶ月以内でさらに低い金額があった場合にはそれが株式の価値として採用されるという訳です。
またたとえ譲渡したい方が未成年であったとしても、証券会社によっては生前贈与に応じてくれるところも中にはあります。その点については現在利用している証券会社に直接問い合わせるといいでしょう。
まとめ
年間110万円という生前贈与の非課税枠を活用することで、プロに頼まなくても比較的簡単に節税することが可能となります。また株式の評価に関しても贈与日2ヶ月以内の最低価額を反映してくれますので、相続と譲渡では譲渡の方がより節税効果が高いことが分かります。
自分の財産から国に搾取される金額をなるべく最小限に抑えることで、自分の大事な人たちに将来の資産を残すことができるのです。超高齢化社会や財政難が顕著になってきた今だからこそ、生前贈与を活用した財産の残し方を検討してみてはいかがでしょうか。
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