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はじめに
今年の春にNintendo switchを発売し、その販売台数が過去最速100万台を突破した任天堂ですが、その業績は目覚ましいものがあります。任天堂自身の業績予想を上回る1.5倍の利益を出し、営業利益においては約90%の上方修正を成し遂げました。
株価に関しても、過去最高の業績へと導いた任天堂Wiiを超える売上を予感し、多くの投資家達が株を購入したため、結果的にPERが一時期は約100倍になるという異例の賑わいを見せました。そこで今回は任天堂株の過去から現在までを振り返りつつ、switchがもたらす今後の任天堂株価変動について詳しく説明していきます。
任天堂株、その特徴
日本のゲーム産業において屈指とも言うべき任天堂ですが、株価の面で見ても、莫大な資産を持つ個人投資家や、大手投資ファンドとして名を連ねる著名な機関投資家からの人気は絶大です。純資産の総額でも日本一を誇り、無借金経営に近しい財務態勢は他に類を見ないほど強靭なものがあります。
この章では任天堂という一つの会社が完成するまでの、過去から近年に至るまでの動向について話を進めていきましょう。
任天堂の歴史
今でこそゲーム業界でもブランド力のある任天堂ですが、設立当初から長きにわたり娯楽に携わってきました。その歴史をさかのぼると創業は1889年、平安神宮に近しい立地にて設立された任天堂カルタに端を発します。花札の製造・販売を主力として営業していた訳ですが、この花札とはかつて武士の間で流行した博打の一種であるカルタの代替品として取り扱われました。江戸時代に入り一切の取り扱いが禁止されたカルタに代わり、和歌から連想した題材を刷りましたが、これも程なくして禁止されてしまいました。
そんな花札の販売がようやく認められた3年後の1889年に、任天堂カルタは創立されたのです。色鮮やかでユーモアに溢れたデザインが地元で評判になり、関西の賭博場で広く扱われるようになりました。「運を天に任せる」とは博打打ちの座右の銘にもありますが、社名の由来に博打から引用するあたり、当初は花札を主戦力として販売していたことが窺えます。
しかし1902年には財源確保のためにとカルタ税が導入され、他の同業者が次々に倒産していく中で任天堂カルタもまた経営方針の岐路に立たされます。そこで創業者が着目したものが、当時輸入品のみでまかなわれていたトランプでした。その際に全国区への進出を視野に入れ、一足早く全国に及ぶ流通網を手に入れたことが功を奏しました。関西地方の一花札屋でしかなかった任天堂カルタが、これ以降急成長を果たして日本一のカード販売会社へと変貌を遂げたのです。
そこから1963年に任天堂株式会社へと商号を変更し、1981年には任天堂の顔であるマリオが初登場する運びとなりました。その後の1983年に販売したファミリーコンピュータがヒットしたため、その時点から子供達に愛される娯楽品として重宝されるゲームの製造・販売へと力を注ぎました。今日に至るまで数々のゲーム作品を生み出し、国民的に知れ渡るキャラクターも多数登場していきました。
コンピュータやパソコンの技術もないままに、ゲーム業界へと参入してきた任天堂は異質とも言える独特の成り立ちから始まったのです。
任天堂における近年最高のヒット作と言えば、やはりWiiではないでしょうか。2006年12月に発売されたWiiですが、2008年度には世界的な人気を集めるようになりました。Wiiの販売台数が最終的には1億台超にまで至り、それに伴い2006年度からの3年間だけでその売上高は1.8兆円まで飛躍しました。Wiiの需要がある程度落ち着くと同時に到来したリーマン・ショックによる世界不況が拍車をかけ、2008年に2,800億円を叩き出した3年後には、その経営状態は黒字から一転して赤字へと急落していきました。
その後2016年7月に「ポケモンGO」のサービスを開始すると、世界規模のダウンロード数によりアプリストアでは栄えある1位に輝きました。しかしその人気ぶりに反して利益自体はそれほど伸びず、Wiiの業績を塗り替えることは叶いませんでした。
それに伴う株価の変動
前述した任天堂の動向に合わせて、株価の変動もより一層激しくなりました。
任天堂史上とも言われる株価の最高値を記録したのは、Wiiの類まれな業績が集約された2008年ではなく、2007年のことでした。2005年に発売されたソフト以来、ヒット作を連発したNintendo DSと新発売したばかりのWiiとの売上が合わさった時点で、当時の株価は7万超えを果たしました。しかしその後はスマートフォンの普及とともに利益が落ち込み、またリーマン・ショックも重なってしまったために、株価はあっという間に3万円代まで暴落しました。
その後にサービスが開始した「ポケモンGO」の影響により、任天堂の株価は一時的にですが約2倍にまで値上がりしました。しかし利益としては想像以上に反映されなかったため、3万円代まで値上がりした株価はわずか2週間程度で2万円代まで急落してしまいました。ここまでが任天堂の近年に至るまでの業績となります。
次章では主にswitchへと着眼点を置き、今後の任天堂の動向と株価についてより詳しく解説していきます。
任天堂株、今後の予想
本章では任天堂が今後展開する予定の事業とそれに伴う株価の変動予想について、より掘り下げて話を進めていきます。
ただし以下の項目において書き進める内容は、あくまで公表されている情報を元にした推論に過ぎません。こちらをご覧になった人に対して、何らかの金融商品を勧める意図は決してありません。その点に留意した上でご覧になりますよう、先だってお断りさせていただきます。
今後の任天堂の事業
この項目については、2017年3月期に行われた決算説明会の資料を引用しながら説明していきます。
switchの需要
年末商戦へと突入する11月に発売されたWiiやWii Uと、翌年3月に発売されたswitchとではハード1台に対するソフトの装着率の差が未だに開いています。switch発売と同時に売り出された「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」がswitchの出荷台数を上回る出荷本数となりました。それ以降に発売したソフトも軒並み好評であり、今後発売が決定しているソフトへの期待度の高まりを、同会社の代表取締役社長である君島達己社長も実感していることが決算説明会の質疑応答からも窺えます。君島社長は株主との質疑応答の場において、「ソフトウェアの装着率は Wii や Wii U との比較も考慮して、装着率 3.5 本から 4 本へと目指していきたい」と説明しました。また当期におけるソフトの出荷本数をおよそ3,500万本にした背景としても、市場の期待度の高さに由来するとしています。switchの出荷予定台数として1,000万台を予定し、かつ対応アクセサリーの豊富さからも推察できるように、switchが過去に発売されたハードと比較にならないほどの収益性の高さを有していることが予想されます。
スマートフォンアプリの拡充
これまでスマートフォンアプリの製作には消極的だった任天堂が、2016年7月に発表された「ポケモンGO」を皮切りにしてスマートフォンアプリビジネスへと参入しました。その後も任天堂IP(知的財産のこと。ここではマリオやポケモンといった自社におけるゲームキャラクターを指す)を活用したスマートフォンアプリを展開したものの、前期での売上高としては200億円足らずの結果となりました。switchのような攻めの商戦に持ち込むことは君島社長自身も敬遠しているようで、「当期は、すでに配信を開始しているスマートデバイスビジネス向けアプリについては継続的にサービスを行い、多くのお客様に遊んでいただき、新たに 2~3 タイトルを投入することでスマートデバイスビジネスを着実に拡大していきたい」と表明しています。ビジネスの新たな基軸として事業を展開する予定はあるが、そこに収益が伴うまでには至らないだろうというのが任天堂としての見解のようです。前期に配信できなかった「どうぶつの森」についても、当期中には配信が決定しているとのことです。
自社IP活用によるビジネスモデルの模索
現段階で決定しているビジネスモデルとしては、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンと提携した「SUPER NINTENDO WORLD」があります。これは世界最新鋭の技術によって構築される、新たな任天堂IPの活用モデルとなっています。公式HPによると、東京オリンピック開催までを目処に完成予定とされています。この革新的な試みで狙うのは、Wiiが成し遂げた偉業同様に、日頃ゲームに親しみのない潜在的な顧客層を新たに獲得することにあります。こうした事業の展開を通して、「当社のハードウェア・ ソフトウェア一体型ビジネスでの新しい提案につなげることができれば、当社のビジネスの拡大にもつながると考え、計画を進めている」と君島社長は語りました。ゲーム専用機ビジネス以外での試みは、関連性を持たせることでその効果が最大限発揮されるという論拠に他なりません。
それに伴う株価変動予想
switchの度重なる品薄状態が頻発し、任天堂としても今年の年末商戦に向けて生産体制を強化していく方針を明らかにしました。これに伴い、株価も変動していくことは明白です。
任天堂はゲーム産業という特殊な業界に位置するため、今後の世界情勢や経済状況によっては株価の値下がりが予想されます。前述したテーマパークでのビジネスモデルも、2020年までは株価への影響力が未知数であり、また完成後すぐに効果が反映されるとも限りません。直近で売上高に影響を及ぼす要因としては、switchにおけるハードの出荷台数と、ソフトの出荷本数が根幹をなすと想定されます。中短期的な値上がりはもちろんありうるでしょうが、異様な数値にまで到達したPERに見合うだけの売上高が期待できるとは一概に言えない部分があります。スマートフォンアプリについてのビジネスモデルも、今後の課題として課金方式を考えなければ充実させることは難しい可能性があります。
まとめ
switchの発売により、Wiiで見せた躍進的な売上と株価を期待するかのように、任天堂株を巡る市場は一層の盛り上がりを見せています。
ただしゲーム産業に関しては、ハードの定期的な更新により利益を補填していく前提があります。現時点では高評価を得ているswitchが、果たしてWii並に売れ続けることができるのかは疑問の一言に尽きます。任天堂株に関しては、損切りするラインの株価を予め決めてから、購入を検討するのが妥当と言えるかもしれません。
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